【解説】内鼠径ヘルニアはこんな病気
大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック
岩村宣亜(せんあ)です。
鼠径(そけい)ヘルニア(脱腸)には、罹患数(患者さまの数)が多い順に以下の三種類があります。
- 外鼠径ヘルニア
- 内鼠径ヘルニア
- 大腿ヘルニア
今回は外鼠径ヘルニアに次いで多いタイプである
内鼠径ヘルニアについてお話させて頂きます。
治療の前に鼠径ヘルニアのタイプについて把握しておくことは、
治療を円滑に進める上で有用です。
内鼠径ヘルニアの疫学
鼠径ヘルニアの中でも内鼠径ヘルニアは、年齢や生活習慣に発症が依存しやすいタイプです。
以前にもお話したように、
外鼠径ヘルニアは鼠径管という『本来、解剖学的に存在する(胎生期に閉じたはずの)経路』を通って脱出します。
これに対し、内鼠径ヘルニアは『解剖学的に経路のない、単なる弱い筋肉の壁』を押し破って脱出します。
鼠径三角(下図の緑の三角形)という、腹直筋のすぐ外側にある三角形の部分は
鼠径部の中でも解剖学的に脆弱化しやすい場所であり
内鼠径ヘルニアは、この部分がお腹側から押し出されることで発症します。
(引用:Wikipedia)
鼠径ヘルニアの発症リスクとして、高齢、痩せ型の体型、腹圧のかかる仕事、前立腺肥大症の手術の既往、
反対側のヘルニアの手術既往、慢性的な咳、などが挙げられます。
内鼠径ヘルニアは本来、筋肉の壁が弱い部分が長い時間をかけて腹圧がかかり続け、少しずつ緩むことで発症するため
外鼠径ヘルニアに比べて高齢、重労働などで体を酷使する男性に多いことで知られます。
鼠径ヘルニアは肥満体型の方に多いイメージがあるかも知れませんが、
実はBMIが低い痩せ方が発症のリスクが高いことが示されています。
内鼠径ヘルニアの治療
内鼠径ヘルニアの治療のゴールドスタンダードは、
メッシュ(プラグ)を用いて筋膜に開いた穴を塞ぐ方法です。
基本的にその他の鼠径ヘルニア(外鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア)と変わりはありません。
鼠径ヘルニアは、放置することで少しずつ筋膜の穴が広がり、膨らみが大きくなります。
当初はピンポン玉サイズだった膨らみが、年数をかけて
テニスボールサイズや握り拳サイズにまで大きくなった状態も珍しくありません。
また、ヘルニアの巨大化に伴い、比較的稀ながら膀胱が滑り出すケースがあります。
尿道狭窄や前立腺肥大症による膀胱内圧の上昇、肥満などが膀胱滑脱のリスクとされており
膀胱は体の真ん中にある臓器であるため、解剖学的にもより内側から脱出する内鼠径ヘルニアに合併しやすい傾向があります。
この場合、手術中の膀胱損傷のリスクがあります。
膀胱損傷はお腹の手術のあらゆるケースで起こりうる合併症です。
よくあるパターンとしては、下腹部の開腹手術では縦方向に真ん中に切開を置く(正中切開)ため、
盲目的に筋膜を下方向に切り過ぎると、膀胱を損傷することがあります。
膀胱損傷は治癒に時間がかかり、手術後のQOL(生活の質)を大きく損ね兼ねない重大な合併症です。
予定手術では時間的・精神的余裕があるためか、このようなケースは滅多に起こりませんが
緊急手術の場合は急いでいるからでしょうか、膀胱損傷を起こして術後の長期入院を強いられている患者さまを、
数は少ないながら私自身目にしてきました。
話が少し逸れますが、外科医は経験を積むに連れて
独自の美的センスを磨いていきます(と、私は思います)。手術操作する場所(術野と言います)を整えることは、
手術を進めるにおいて最も大切な要素のうちのひとつです。汚いデスクでは仕事が捗らないのと同じでしょうか。
手術の場合はそれが命に関わる思わぬトラブルに直結するため、
まるで息をするように無意識に、一挙手一投足に美意識を持ちつつ手術を進めます。手術の最初のステップである皮膚切開(腹部外科の場合は開腹と言います)からそれは始まっており、
基本作業が出来ない外科医は手術が上達する機会を与えてもらえません。開腹時の膀胱損傷は基本中の基本であり、
例え急いでいたとしても起こしてはならない合併症です。
また、外鼠径ヘルニアに加えて内鼠径ヘルニアが潜んでいるケースがあり、
しばしば手術の際に見逃されてしまいます。
この場合、外鼠径ヘルニアのみが治療されて内鼠径ヘルニアが治療されずに残るため
手術直後にも関わらず再発を来してしまいます(これは再発というより単なる確認不足ですね)。
これに対し、当院でも採用する内視鏡手術ではカメラで鼠径部が裏から広く一望できるため
そもそもこう言った見逃しを起こすことがありません。
自己判断で放置せず、ご相談ください
いかがだったでしょうか?
鼠径ヘルニアは男性の3人に1人に発症すると言われていますが、
その認知度はまだまだ高くありません。
私の周りの中高年の非医療者に聞いたところ、
『腰のヘルニアのこと?』
『痔みたいなもの?』
『薬で治るんでしょ?』
という返事がほとんどです。
恥ずかしい、忙しいといった理由から放置されている方が、潜在的に沢山おられることでしょう。
膨らみだけで痛みなどの症状が全くない、日常生活においても気にならない、
または嵌頓(腸が詰まって壊死すること)を一度も起こしたことがない場合であれば、
きちんと話し合った上で様子観察を選択するケースもありますが
放置することでどんどん巨大化し、見た目にも影響することに加え、
治療が難しくなると同時に、関連する合併症のリスクが上昇します。
(鼠径ヘルニアを放置した場合については、過去の投稿を参照下さい)
こういった理由から、自己判断で放置することはお勧めしません。
当クリニックは、まずはご自身の病気についてご理解頂いた上で
治療を行うべきかどうか、またどのような選択肢があるか
患者さまの立場に立ってきちんと説明し、ご理解頂くことを診療の基本としております。
是非一度、お気軽にご相談ください。
本日は以上です。
ご一読いただき、ありがとうございました。
大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック
岩村 宣亜
鼠径ヘルニアの治療は当院を受診ください
JR大阪駅から徒歩3分の大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニックでは、鼠径ヘルニアを内視鏡(腹腔鏡)による日帰り手術で治療しています。
鼠径ヘルニアの症状があるなど、お困り・お悩みの方はぜひ当院を受診ください。