【質問】高齢者でも鼠径ヘルニア手術を受けるべき?大丈夫?
大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック
岩村宣亜(せんあ)です。
当院には、80歳を超える患者さまも多くご来院されます。
また、当院の標準治療である内視鏡(腹腔鏡)での日帰り手術を受け、
ご自身の足で歩いて、ご帰宅を頂いております。
一般に高齢者とは65歳以上を指すことが多いことかと思われますが
高齢化社会においては、65歳はまだまだ働き盛りの方も多いことかと思われます。
私個人、一外科医の感覚としては
高齢者として手術適応に慎重になる年齢は75歳以上、
世の中では後期高齢者にあたる年齢層かと思われます。
75歳や80歳といった高齢者でも、鼠径ヘルニア手術を受けるべき?
手術に耐えられるの?
本日は、そんな疑問にわかりやすくお答えします。
高齢者でも鼠径ヘルニア治療を避ける必要はない理由
結論から申し上げると、高齢者であるという理由だけで
鼠径ヘルニアの治療を避けたり、諦めたりする必要はありません。
鼠径ヘルニアとは、鼠径部に開いた筋肉の穴から臓器が脱出する病気であり
ほぼ全ての患者さまに鼠径部の膨らみを認め、横になると膨らみが消失します。
その他の症状として、鼠径部の違和感や圧迫感、鼠径部の痛みや腹痛など多岐に渡り
放置することで嵌頓を始めとした様々な問題が起こる可能性があります。
自然に治ることはなく、治療には手術が必要となり
小児など一部の例を除き、標準治療は鼠径部にメッシュを挿入して臓器の脱出を防ぐことです。
嵌頓(かんとん)とは、小腸を始めとした臓器がヘルニアに嵌まりこむことで
鼠径部やお腹の痛み、お腹の張り、腸閉塞や臓器の壊死を起こす病態であり
これを未然に防ぐことが、鼠径ヘルニア治療の最大の目的です。
嵌頓を起こして整復(元に戻すこと)ができなかった場合、
緊急手術になることに加え、場合により壊死した臓器を切除する(取り除く)必要があるため
体への負担が格段に大きくなります。
また、腸を切除することで見えない細菌が術野にばら撒かれてしまい
同じ手術でメッシュを使用すると、非常に難治性であるメッシュ感染の危険性が高まるため
日を開けてもう一度、メッシュ挿入のために手術を行う必要があります。
このように、鼠径ヘルニア嵌頓は様々な危険性を孕んでおり
こと高齢者の場合、負担の大きい手術を受けることで体力が落ちてしまい
今まで普通にできていたことができなくなることもしばしば。
また、鼠径ヘルニアの治療を行う目的は、この嵌頓を防ぐことだけではありません。
鼠径ヘルニアの患者さまの中には、日常的に鼠径部の痛みや圧迫感など、様々な症状を自覚しておられる方や
鼠径ヘルニアが理由で、お仕事や日常生活、趣味などに打ち込めない方も多くおられます。
私自身、こういった患者さまにこそ、治療を検討して頂きたいと考えます。
恥ずかしい、面倒だ、といった理由で放置したくなる気持ち、痛いほど分かります。
嵌頓を起こさない限り、一週間や二週間といった期間で患部が悪化することはありませんが
治療を自己判断で先延ばしにし続けることは、デメリットが蓄積されてしまうため推奨されません。
例外的に、寝たきりの患者さまに関しては、お腹に圧がかかりにくいことから
臓器がそもそも脱出しにくく、あまり積極的には治療をお勧めしませんが
最低限、足腰がしっかりされており一人で歩ける方や、身の回りのことが自分でできる患者さまに関しては
ご相談の上、治療をお勧めするようにしております。
健康寿命が重要視される今日であるからこそ、
先に述べた様々な症状や、日常的な懸念を抱えた状態で生活されるのであれば
一歩踏み出して治療を検討されても良いのでは、そう考えます。
高齢者に対する腹腔鏡手術の安全性は様々な分野で確立されつつある
腹腔鏡手術とは、炭酸ガスでお腹を膨らませて行う手術方法です。
消化器疾患、婦人科疾患、泌尿器疾患など様々な疾患に対して行われており
今や腹腔鏡手術で対応できない疾患は、臓器移植や一部の進行癌などごく一部です。
もちろん鼠径ヘルニアに対する腹腔鏡手術も、世界的に普及している治療法です。
当院で行うTAPP法とは、5mmほどの傷3ヶ所で行う手術方法であり
ハイビジョンカメラや鉗子と呼ばれるピンセットのような器具を用いて手術を行うことで
精緻で出血が少ない手術を可能にします。
手術時間は片側一時間程度、出血も数cc程度と少なく
開腹手術に比べて手術後の慢性疼痛が少ない、両側鼠径ヘルニアの同時治療が可能、などといったメリットがあります。
腹腔鏡手術は傷が小さく痛みが少ないため、早期社会復帰に適した術式である一方
開腹手術に比べて高度な技術を必要とする、やや手術時間が長くなる、といった理由から
一昔前は高齢者に対する安全性が確立されていませんでした。
近年は腹腔鏡手術の技術普及により、様々な疾患において
国内外から高齢者に対する腹腔鏡手術の安全性に関する報告が集積されています。
こと消化器疾患においては、胃癌や大腸癌などの大きな手術においても
開腹手術に比べて安全性に遜色がない、とする報告が国内外から多く集められており
現時点でまだ結論付けることはできませんが、高齢者に対する腹腔鏡手術は着実に広がりつつあります。
また、腹腔鏡手術は全身麻酔を必要とすることから領域麻酔(局所麻酔など)に比べて
お身体への負担がやや大きくなる傾向にあるのですが
重度の心疾患や肺疾患をお持ちなど、全身麻酔が不適切と考えられる場合を除き
例え高齢者でも大きな既往がなければ、全身麻酔は原則、安全に行うことが可能です。
高齢者の『せん妄』は入院で悪化する
高齢者に多い病態、『せん妄』をご存じでしょうか?
入院をきっかけに一時的に認知症が進んだように見えたり、
幻視や幻聴、性格が変わるなどといった症状が現れることがありますが
これをせん妄と呼びます。
せん妄とは急激な環境の変化が原因のひとつとされており
一時的な病態であるため、退院などをきっかけに必ず改善するのですが
初めてご覧になられたご家族さまが『認知症が悪化した、元に戻らないのではないか』と
驚き、心配される場面に多く遭遇して参りました。
それだけでなく、点滴を自分で抜いてしまったり、病室から勝手に出歩いたり、時には他人に手をあげたりするなど
治療の妨げになるケースが散見されます。
これらの一連の状態は、そもそも入院による長期間の環境の変化が大きな原因のひとつであり
最も効果的な治療法は『自宅に早く帰ること』です。
また、手術後の『痛み』もせん妄のリスクとして知られており
痛みを適切にコントロールすることは、これらの側面からも大切です。
こと日帰り手術においては、安全にご帰宅頂くため痛みのコントロールは最も力を入れるべきポイントであり
当院でも複数の種類の痛み止めや、神経ブロックの併用など、様々な方法で手術後の痛みを減らす工夫を行っています。
これらの理由から、日帰り手術はせん妄を起こすリスクを限りなく低く抑えることが可能となります。
日々を有意義に過ごすためにできること
いかがだったでしょうか?
高齢化社会において、健康寿命を伸ばすことは重要課題であり
予防医療の重要性が年々高まっています。
嵌頓を未然に防ぐという観点から、鼠径ヘルニア治療は
ある意味ひとつの予防医療であると言えるのでは、と考えます。
高齢者における嵌頓や緊急手術は、これまで通常に送れていた日常生活を一転させてしまうリスクを孕んでいます。
これらを未然に防いで、健康寿命を伸ばすためにも、お元気なうちに治療を検討されてはいかがでしょうか。
本日は以上です。
ご一読いただき、ありがとうございました。
大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック
岩村宣亜
鼠径ヘルニアの治療は当院を受診ください
JR大阪駅から徒歩3分の大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニックでは、鼠径ヘルニアを内視鏡(腹腔鏡)による日帰り手術で治療しています。
鼠径ヘルニアの症状があるなど、お困り・お悩みの方はぜひ当院を受診ください。