【解説】嵌頓ヘルニアに対する内視鏡手術の有用性
大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック
岩村宣亜(せんあ)です。
鼠径(そけい)ヘルニア(脱腸)の合併症のひとつに
『嵌頓(かんとん)』があります。
この嵌頓、命の危険を有する合併症であることから
手術を推奨する最大の理由が嵌頓の予防にあるのですが
当院で採用する内視鏡手術は、嵌頓ヘルニアに対して有用であるとされています。
本日は、内視鏡手術がなぜ嵌頓ヘルニアに対して有用であるのか
分かりやすくお話させて頂きます。
嵌頓ヘルニアの診療は日帰りでは困難なため、当院は行っておりません。
このため、関連病院に紹介させて頂きます。
今回のお話は、やや専門的な内容となります。
嵌頓ヘルニアに対する内視鏡手術は、現在エビデンスを集積する段階です。
嵌頓ヘルニアの病態と治療
嵌頓とは、鼠径部(太ももの付け根)に開いた筋膜の穴から
腸が脱出して戻らなくなることを指します。
これにより、腸の血流が阻害されることで鬱血(血が溜まること)や
虚血(血が通わなくなること)を来してしまい
腸の壊死(腐って元に戻らないこと)を引き起こしてしまう可能性があります。
嵌頓の症状として、鼠径部の痛みや腫れ、腸閉塞症状(排ガスの停止、嘔気・嘔吐、腹部膨満など)が現れますが、
症状が現れた際には既に発症から数時間が経過しており
腸の血流障害や腸閉塞が進行している場合があります。
このため、日帰りでは診療が困難であり
入院施設を有する病院での慎重な経過観察が必要となります。
嵌頓を起こして病院を受診した際、まず最初に行われる処置として、
『用手環納』があります。
これは、特殊な方法を使って、嵌頓した腸をお腹の中に戻す方法のことを指します。
医師が手を使って行うことから、『用手』という名前がついています。
これは、可能な限り早く嵌頓を解除(=腸をお腹の中に戻すこと)して、腸の壊死を防ぐための方法であり
根本的な治療法ではありません。
この用手環納という手法、難易度が高く
慣れた医師でも嵌頓の解除が出来ないことが多々あり
この場合は緊急手術により、嵌頓を解除するしか方法がありません。
また、成功してお腹の中に戻ったとしても
一度壊死した腸は再び回復することはなく
腸の壁に穴が開き、お腹の中に腸液が漏れ出て腹膜炎を起こしてしまいます。
この腹膜炎、様々な原因により起こる病態ですが
腸に穴が開く、いわゆる『消化管穿孔』による腹膜炎の場合
細菌が身体中に回り、数時間以内にショックを起こしてしまう可能性もある
非常に危険な病態です。
また、一度嵌頓を起こした腸は、場合により動きが一時的に麻痺してしまい
腸本来の働きである消化物や腸液を流す役割を果たせなくなることがあります。
これを『麻痺性腸閉塞』といいます。
このような様々な懸念があることから、
鼠径ヘルニアを自己判断で放置することは危険です。
腸壊死を是が非でも避けたい理由
嵌頓ヘルニアにおける腸壊死、それは
我々ヘルニア外科医が是が非でも避けたい病態です。
腸が壊死した場合、そのまま放置すると腸が元の元気な姿に戻ることはないため
壊死した腸を切除して繋ぐ必要があります。
この場合、腸液が外に漏れ出るなど、不潔手術という取り扱いになります。
一方で、メッシュを使う通常の鼠径ヘルニアの手術は、細菌を極端に嫌います。
この理由として、人工物であるメッシュに細菌が付着すると
後に膿を作るなど、難治性感染の原因となるためです。
このため、初回の手術ではヘルニアを治さずに二期的に手術をするか、
メッシュを使わない組織縫合法を選択する必要があります。
しかしながら、この組織縫合法はメッシュ法に比べて再発率が高く
成人鼠径ヘルニアには原則として推奨されていません。
このように、嵌頓ヘルニアにおける腸壊死は
鼠径ヘルニアをきちんと治すという観点から出来る限り避けたい病態であり
手術前に腸が壊死しているかどうかを見極めることは
非常に重要なポイントとなります。
嵌頓ヘルニアに内視鏡手術が有用な理由
では、なぜ内視鏡手術が嵌頓ヘルニアに有用なのでしょうか?
ひとつめの理由に、お腹の中を一望できるということが挙げられます。
内視鏡を使うことで、小さな傷でお腹の中で何が起こっているか
実際に見て確認することが可能となります。
嵌頓ヘルニアの場合、内視鏡を使用することで
用手環納でお腹の中に戻した腸が壊死を起こしていないかどうか
実際に見て確認することが可能となります。
腸の色が明らかに悪かったり、腹水が強く濁っている場合などは
壊死を極めて強く疑う根拠となり
そのままの流れで手術へとスムーズに進むことが可能となります。
内視鏡のまま手術を進めることも、お腹の中の状況に応じて
開腹手術に変更することも可能です。
ふたつめの理由に、傷を大きく伸ばしたり新たな傷を追加することなく
手術が可能ということが挙げられます。
嵌頓ヘルニアに対して鼠径部切開法で手術を行う場合、
腸をお腹の外に出す傷が必要となるため
鼠径部の傷を切り足して延長したり、別の場所に新たに傷を追加する必要があります。
先述のように、鼠径ヘルニアの手術では鼠径部にメッシュを挿入するため
感染面の懸念から、鼠径部の傷から壊死した腸をお腹の外に出すなどの不潔な操作が嫌われる傾向にあります。
一方で、内視鏡手術の場合は、メッシュを挿入する場所とは別の場所に
傷を置いて手術を行うため、鼠径部を清潔に保てることに加え
内視鏡を使って必要最低限の操作で壊死した腸を取り扱い
より小さな傷で腸をお腹の外に取り出すことが可能となります。
内視鏡手術は経験や対応力が必須
いかがだったでしょうか?
内視鏡手術は、開腹手術に比べて柔軟性が高い手術方法と考えます。
小さな傷で、複数の選択肢を持ちつつ手術を進めることが可能な反面
不慮の際の対応力・突破力など、熟練度が必須の手術方法です。
鼠径ヘルニアのみならず、消化管や肝胆膵といった様々な内視鏡手術を
数多く執刀するのみならず、指導的な立場や助手として数多く見ることは
内視鏡手術を専門とする上で必須の経験となります。
当クリニックにおいては、多臓器の内視鏡手術の執刀歴、助手歴のある私自身が
責任を持って、手術の質の担保(クオリティコントロール)を行います。
本日は以上です。
ご一読いただき、ありがとうございました。
大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック
岩村 宣亜
鼠径ヘルニアの治療は当院を受診ください
JR大阪駅から徒歩3分の大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニックでは、鼠径ヘルニアを内視鏡(腹腔鏡)による日帰り手術で治療しています。
鼠径ヘルニアの症状があるなど、お困り・お悩みの方はぜひ当院を受診ください。