【解説】外鼠径ヘルニアはこんな病気
大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック
岩村宣亜(せんあ)です。
鼠径ヘルニアには大きく分けて以下の三種類があります。
- 外鼠径ヘルニア
- 内鼠径ヘルニア
- 大腿ヘルニア
今回はそのうちのひとつ、最も多いタイプである外鼠径ヘルニアについて、
成り立ち、病態、治療法など様々な観点から、
詳しく分かりやすく、お話させて頂きます。
事前にどの鼠径ヘルニアに該当するか把握しておくことは、
治療を円滑に進める上でとても大切です。
鼠径管: 外鼠径ヘルニアが通る道
外鼠径ヘルニアについてお話する前に、鼠径管という構造物についてお話致します。
鼠径管とは、その名の通り鼠径部(太腿の付け根)にある管のような構造物です。
男性の場合、精巣は胎生期にお腹の中で作られるのですが、
産まれてくるまでの間にお腹の外に出て、陰嚢の中に収まります。
この過程で、腹壁(お腹の壁を構成する筋肉)を貫通する必要があり
この際に通る道が鼠径管です。
鼠径管は通常、産まれてくる過程で閉鎖します。
このため、鼠径管とは『お腹の中と外を通じる通り道があった名残』と言いかえることができます。
(女性の場合は精巣がないため、子宮を支える子宮円靭帯という紐状の組織が通ります)
お腹側の入り口を内鼠径輪、外側の出口を外鼠径輪と呼びます。
外鼠径輪から出た先は、陰嚢に続く訳ですね。
外鼠径ヘルニアの病態
それでは、外鼠径ヘルニアについてお話を進めます。
外鼠径ヘルニアは、この鼠径管を通ってヘルニアの脱出が起こる病態を指します。
鼠径管は閉じたはずなのに、なぜそこからまた脱出するのでしょうか?
それには二つのパターンがあります。
- 鼠径管が発生過程で閉じなかった場合(=小児の鼠径ヘルニア)
- 鼠径管が何らかの原因により再び開いた場合(=成人の鼠径ヘルニア)
以下の図にあるように、陰嚢は発生過程で鼠径管を通る際、
腹膜(お腹の内側を覆う膜)を引き込んでお腹の外に出ていき、陰嚢内に到達します。
この過程で引き込まれた腹膜を腹膜鞘状突起と呼びますが、
これが閉鎖されない(腹膜鞘状突起の開存)ことで、穴が開きっぱなしの状態となります。
これが小児の鼠径ヘルニアが起こる原因です。
裏を返せば、小児の鼠径ヘルニアはこの外鼠径ヘルニア型で発症します。
ヘルニア嚢(のう)とは、脱出した臓器を覆う膜のこと。
鼠径ヘルニアの場合は、腹膜がヘルニア嚢となります。
では、成人の場合はどうでしょう?
成人の鼠径ヘルニアは、閉じたはずの鼠径管が腹圧に押されて
再び開いてしまうことが原因で発症します。
鼠径部には生理的に弱い部分がいくつかあり、
その内のひとつが、この鼠径管の入り口である内鼠径輪です。
男性の場合は、鼠径管を陰嚢、および陰嚢に続く管(精管、精巣動静脈)が通るのですが
女性の場合は靭帯一本が通るのみです。
このため、男性の方が女性より鼠径管が太く
鼠径ヘルニアが男性に圧倒的に多いのは、こういった理由があります。
外鼠径ヘルニアの診断、症状
鼠径ヘルニアの典型的な症状は、『鼠径部が立って膨らむ、寝て凹む』です。
このため、『鼠径ヘルニアか、他の病気か』の診断は、ほとんどの場合が身体診察で完了します。
一方で、鼠径ヘルニアの種類を調べるには、腹部超音波や CTなどの追加検査が必要です。
ここで少し、解剖学的なお話を。
外鼠径ヘルニアが通る道である鼠径管は筒状の形をしており、
お腹側の入り口、内鼠径輪は下腹壁動静脈という血管の外側に位置します。
このため、膀胱を始めとする鼠径部の内側にある臓器が脱出することは稀であり
ほとんどが内臓脂肪や腸(小腸、大腸共に)、女性の場合は卵巣などが脱出します。
外鼠径ヘルニアは、嵌頓(腸が穴に詰まって壊死を起こすこと)を起こしやすいタイプとしても知られています。
腸には大腸、小腸がありますが、嵌頓を起こしやすいのは小腸です。
小腸はお腹の中を自由に動き回ります。
ある時、穴に近づいた小腸が腹圧に押されることで穴から脱出し、
詰まってしまい出て来れなくなることで、嵌頓を起こします。
一方で大腸の場合は、大部分がお腹の壁に固定されているため、小腸に比べると自由度は低い反面
腸の壁が分厚いため、嵌頓を起こす頻度は低くなります。
穴に嵌まり込んだ大腸はヘルニア部位と癒着し、慢性的に嵌まり込んだ状態になることも多く
便の流れが滞り、便秘を来す可能性があります。
外鼠径ヘルニアの治療
外鼠径ヘルニアの治療のゴールドスタンダードは、
鼠径部に開いた穴(外鼠径ヘルニアの場合は内鼠径輪)を医療用のメッシュを用いて閉じることで
臓器の脱出を防ぐ方法です。
他のタイプ(内鼠径ヘルニア、大腿ヘルニア)と基本的には治療方法は同じです。
鼠径部切開法や内視鏡手術など、治療の選択肢は様々ですが
治療成績の観点からは、どちらでも遜色はありません。
(鼠径部切開法と内視鏡手術の特徴については、過去の記事をご参照ください)
ここで、当院で採用する内視鏡手術(腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術: TAPP法)をご紹介致します。
全身麻酔でお眠り頂いた後、5mm程度の傷3か所で手術を行います。
手術時間は一時間程度、出血はほとんどありません。
一般論として、1cmを超える傷では痛みを自覚されるケースも増えますが、
5mm程度のお傷の場合、痛みの程度そのものがとても小さくなるため
痛み止めなどで症状を押さえやすくなります。
内視鏡手術のメリット(鼠径部切開法との比較)として、
- 傷が小さく痛みが少ない、早期の社会復帰が可能
- 全身麻酔により痛みを感じずに手術が終了
- 両側の場合、同じ傷で同時手術が可能
- 術後合併症のひとつである慢性疼痛が少ない
- 稀に潜む他の鼠径ヘルニアを見逃さない
一方、デメリットとして
- 全身麻酔が必要(患者さまに応じて日帰りの適当外の可能性あり)
- 手術時間が長い
- 治療費が高額
などが挙げられます。
入院手術の場合、入院期間は一泊二日〜一週間程度と、医療機関により様々です。
一方で、当院が採用する日帰り内視鏡手術の場合、
先に述べたメリットを日帰りで受けて頂くことが可能となります。
例えば、朝一番(8時半〜9時開始)の手術の場合、10時頃には手術が終了し、
お昼過ぎにはご帰宅頂ける体制を整えています。
(手術の内容や患者さまの状態に応じて、多少前後する可能性があります)
また、日帰り手術の場合、入院に必要な費用が不要となるため
数割程度、治療費を抑えることが可能です。
加えて、高額療養費制度の適用が可能なことから
月々のご負担を、患者様に応じた一定額以内に収めることが可能です。
ぜひ専門医に、ご相談ください
いかがだったでしょうか?
外鼠径ヘルニアは鼠径ヘルニアの中でも多くを占めることから
日本全国多くの医療機関において、数多くの手術が行われています。
一方で、治療全体の質を担保することの背景には、
的確な診断、治療適応の判断、質の高い治療行為、治療後の適切な経過観察など、
満たすべき基準が多く存在します。
専門医の役割は、それら全てに広く、かつバランスよく精通し、
またマネジメントが出来ることだと考えます。
『もしかして私、鼠径ヘルニアかも?』
ご自身のお気付きは、治療の入り口です。
ぜひ専門医に、ご相談ください。
本日は以上です。
ご一読いただき、ありがとうございました。
大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック
岩村宣亜
鼠径ヘルニアの治療は当院を受診ください
JR大阪駅から徒歩3分の大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニックでは、鼠径ヘルニアを内視鏡(腹腔鏡)による日帰り手術で治療しています。
鼠径ヘルニアの症状があるなど、お困り・お悩みの方はぜひ当院を受診ください。