【質問】鼠径ヘルニア治療、抗生物質は使いますか?
大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック
岩村宣亜(せんあ)です。
手術や処置などを行う際には、後の感染予防の観点から
治療前後で抗生物質が使用されることが一般的です。
本日は、鼠径(そけい)ヘルニア(脱腸)の治療においては、
どのタイミングでどのような抗生物質を使用するのか
分かりやすくお話させて頂きます。
抗生物質の基本知識
抗生物質とは、別名抗菌薬と呼ばれ、
細菌(ウイルスではありません)を壊したり、増えるのを防ぐために使用される薬剤のことです。
主には、感染症の治療や予防のために使用されます。
感染症とは、体の中に病原体が入り込み、体内で増えることを指します。
細菌でもウイルスでもその他の病原体でも感染症と呼びますが、
抗生物質は基本的に細菌による感染症の場合にしか使用しません。
いわゆる風邪と呼ばれる病気はそのほとんどがウイルス感染症によるものであるため
風邪には抗生物質は使用しない、というのが現在の外来診療の基本となっています。
※細菌とウイルスの違いについて簡単に触れさせて頂きます。
細菌は目に見えないほど小さな単細胞生物で、
自分自身で増殖する機能を持ちます。
一方でウイルスは、細菌よりさらに小さく自らは細胞を持たずに
内部に遺伝情報(DNAやRNA)を持つのみであり
宿主の細胞に入り込んで増殖し、感染が成立します。
抗生物質には、ペニシリン系やセフェム系といった様々な種類があり、
投与方法は主に、内服か点滴の二種類に分かれます。
鼠径ヘルニア手術における抗生物質の投与方法
鼠径ヘルニアの治療方法は手術です。
本項では、鼠径ヘルニアの手術における抗生物質の投与方法についてお話させて頂きます。
①手術開始の一時間前以内に、点滴の抗生物質の投与を開始します。
これは、手術部位への感染症(=SSI (Surgical site infection) と呼びます)を予防することを目的としています。
これを予防的抗菌薬投与と呼びますが
大半の場合は麻酔がかかり眠った後、手術が始まる前に投与されることが多いです。
手術の前に投与する理由は、手術開始(正確には皮膚切開)のタイミングで
血液中の抗生物質の濃度を十分に高い状態で維持するためです。
使用する抗生物質の種類は、手術部位の常在細菌叢(常に住んでいる細菌の種類)を
ターゲットにする必要があります。
鼠径ヘルニアを含む一般外科の場合は、黄色ブドウ球菌や連鎖球菌をターゲットに定めた上で
セフェム系抗生物質であるCEZ(一般名: セファゾリン)が使用されます。
②3〜4時間ごとに同じ抗生物質であるCEZを再投与します。
手術開始後、抗生物質はその薬剤の半減期の2倍の間隔で再投与するよう定められています。
鼠径ヘルニアの場合は、3〜4時間を目安にCEZの再投与を繰り返すことになりますが
手術時間が片側で1時間程度、両側でも2時間程度であるため、
通常の手術では再投与は行われず、初回の一回投与のみとなります。
(再発鼠径ヘルニアや、前立腺術後の鼠径ヘルニアの場合、手術時間が長時間に及ぶ可能性があり、再投与を行う場合があります)
③手術後は抗生物質の投与は原則、不要です。
手術終了後の抗生物質の投与に関しては様々なデータがあり強いエビデンスに欠けるのが現状ですが、
日本のガイドラインにおいては、鼠径ヘルニアの手術はSSI(手術部位感染症)のリスクが比較的低いため
手術後の投与は必要ないと明記されています。
ただし、SSI(手術部位感染症)のリスクは、手術の内容のみならず、
患者様の状態や併存疾患に応じても様々であることから
患者様に応じて、感染予防目的に数日程度、
内服抗生剤を処方させて頂く可能性があります。
感染症を減らすために出来ること
最後に、抗生物質投与における注意すべきポイントについて
まとめさせて頂きます。
・薬剤アレルギー歴、特に抗生物質でのアレルギー歴のある方:使用する抗生物質を変更する可能性があるため、事前の確認が必要です。当院で用意する問診欄に記載頂くか、医師/看護師までお申し出下さい。
・感染症を合併しやすい併存疾患のある方、過去に全身感染症の既往のある方:糖尿病、肝硬変、免疫不全症などの既往がある方、または過去に全身感染症の既往のある方は、問診票に記載頂くか、医師/看護師までお申し出下さい。
・喫煙をされている方:手術決定日以降から手術後約一週間程度までの間、必ず禁煙して下さい。手術前後での喫煙は、SSI(手術部位感染症)のみならず、肺炎などの感染症のリスクを上げます。
・血が止まりにくくなる薬を服用中の方:手術中の出血は、感染症を引き起こしやすくなります。抗凝固薬、抗血小板薬などの薬剤を服用中の方は、問診票に記載頂くか、医師/看護師までお申し出下さい。
手術に感染症はつきものであり、ゼロにすることは出来ません。
SSIと呼ばれる手術部位の感染症の他にも、
全身麻酔に伴う誤嚥性肺炎など、ここに記す以外の感染症も数多くあります。
一方で、感染症やその対策法、また自分自身の感染リスクを知ることは
少しでも感染症を減らす試みに繋がります。
当院としても、考えられる様々な切り口から
この感染症を減らすべく、最大限の努力を行って参ります。
本日は以上です。
ご一読頂き、ありがとうございました。
大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック
岩村 宣亜
鼠径ヘルニアの治療は当院を受診ください
JR大阪駅から徒歩3分の大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニックでは、鼠径ヘルニアを内視鏡(腹腔鏡)による日帰り手術で治療しています。
鼠径ヘルニアの症状があるなど、お困り・お悩みの方はぜひ当院を受診ください。