【解説】手術後の社会復帰について
大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック
岩村宣亜(せんあ)です。
鼠径(そけい)ヘルニア(脱腸)の手術は患者さまに対する身体的ご負担が比較的少ないことから、
日帰り手術が普及して参りました。
一方で、当院で行う内視鏡(腹腔鏡)手術を日帰りで行う施設は、日本でもまだ少数です。
内視鏡手術は、鼠径部切開法に比べて傷が小さく痛みが少ないことから
早期社会復帰が可能な手術法ではありますが、
手術後の経過にご不安を感じられる方も多いかと存じます。
『日常生活にきちんと戻れますか?』
『仕事にはいつから復帰可能ですか?』
『スポーツはいつから大丈夫?』
本日は、こんなご質問にわかりやすくお答え致します。
当院は様々な患者さまのご要望にお応えするために、土日祝日も診察・手術を行います。
当院の手術: TAPP法について
手術後の社会復帰についてお話しする前に、
当院で行う鼠径ヘルニアの手術について改めてお話させて頂きます。
当院で行う手術方法は、腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(TAPP法)という術式であり
全身麻酔でお眠り頂いたあと、お腹に5mm程度のお傷3箇所を置いて行います。
手順は以下の通りです。
- お腹の中(腹腔内)を通って鼠径部に裏から到達
- 鼠径部の腹膜を切開し、腹膜前腔を剥離
- 剥離した腹膜前腔にメッシュを挿入
- 腹膜を縫い閉じて終了
(引用: 日本ヘルニア学会)
手術時間は片側1時間程度(麻酔を含めると1時間半程度)、出血はほとんどありません。
全身麻酔下に行うため、目が覚めれば手術は終了しています。
手術後1-2時間程度観察した後、徒歩でご帰宅頂きます。
このように、患者さまへの身体的ご負担は小さく済む手術方法ではありますが
日常生活への復帰に関して、何日目から何が可能か、とする明確なエビデンスはありません。
ガイドラインにも明記はされておらず、以下のような曖昧な内容に留めてあります。
『メッシュを用いたtension-free手術ならば、医学的に術後長期の休息安静は必要とされず、
術後早期から身体活動を再開することが推奨されている』
『一方、重い物を持ち上げるといった行為をいつから行ってよいのかは、
術後3週間を目安とするという意見もあるが十分には検討されていない』
次項では、当院で患者さまにご案内する術後の経過と社会生活復帰の目安について、お話致します。
(※術後経過には個人差がある上に、社会背景は患者さまに応じて異なりますので、
あくまで目安であることにご留意下さい。)
手術翌日〜翌々日: 日常生活、デスクワークを無理のない範囲で
手術翌日の主な症状としては、お腹の傷の痛みや鼠径部の違和感が主体となります。
麻酔の影響は当日のうちに全て抜けますので、
翌日まで遷延することはありません。
買い物程度の歩行や家事、パソコン作業など座った状態でのお仕事は可能です。
(症状の程度に応じて、お渡しする痛み止めを服用して頂きます)
一方で、頻繁に立ち座りする作業や、自転車を漕いだり、長時間の立ち仕事などに関しては、
出来るだけお控え頂いた方が無難かと思います。
手術翌日は、傷の痛み以外にもお体に負担が残っていますので、
お時間が許せばご自宅でゆっくり休まれても良いかも知れません。
術後数日〜一週間程度: 軽い運動、中等度負荷のお仕事
手術翌日に感じておられた傷の痛み、鼠径部の違和感といった症状は、
数日経過すればほとんど感じなくなります。
長時間の立ち仕事や外出仕事、生活圏内で自転車を漕ぐ、ウォーキングなどの軽い運動であれば、
手術後数日〜一週間前後が再開の目処になります。
この時期に気を付けて頂きたいこととして、
重い物を持つ、激しい運動をするなどの、お腹や手術部位に強い負荷がかかる行為はお控え下さい。
お腹への強い負荷は、傷の治癒を遅らせたり、合併症に繋がります。
手術ではお腹の中に到達するために、腹筋に小さな穴を開けるのですが
この部分がきちんと治癒しないと、お腹の壁に穴が空いた状態となります。
当初は小さかった穴も、腹圧がかかることで少しずつ大きくなり、臓器の脱出を来す場合があります。
これを腹壁瘢痕ヘルニアといいます。
そう、鼠径ヘルニアと同じ『ヘルニア』です。
鼠径ヘルニアの治療のために、違うヘルニアを作ってしまう可能性があります。
また、早期の強い身体的負担は、手術で挿入したメッシュにとっても悪です。
鼠径部に挿入されたメッシュは、手術後二、三週間かけてゆっくり周囲の組織と癒着します。
メッシュと周囲の組織の癒合を待たずに激しい運動を行うと、メッシュがズレたり翻る原因となり、
手術後早期の再発のリスクとなります。
術後三、四週間以降: 高負荷のお仕事、ジョギングなど
お仕事で重い物を持たれたり、軽いジョギング程度の運動は、
術後三、四週間程度がひとつの目安となります。
一方で、激しい運動や腹筋運動など、負荷の高いトレーニングに関しては、
更に長い期間の安静が求められます。
これに関しても明確なエビデンスはないため、一ヶ月、二ヶ月と少しずつ患部の状況を確認しながら
運動強度を高めていくことが、現実的かつ理想かと思われます。
繰り返しになりますが、手術後早期における身体的負荷の大きいお仕事や激しい運動は、
一部の合併症のリスクを高めてしまう可能性があります。
お仕事や趣味の運動など背景は様々ではありますが、
この期間にご無理をなされることには一定のリスクが伴うことをご理解頂ければ幸いです。
鼠径ヘルニアをきちんと治療することの大切さ
いかがだったでしょうか?
鼠径ヘルニアに限った話ではありませんが、
病気をきちんと治すということはとても大切です。
きちんと治さないと、いつまでも症状を引きずってしまうため、日常生活に支障をきたしてしまい
結果的に治療期間のみならず、病悩期間が長くなってしまう可能性があります。
とりわけ、鼠径ヘルニアに限ってお話しすると
頻度は低いものの、再発や慢性疼痛といったQOL(生活の質)に直結する合併症があることから
一度目の手術できちんと治すことがとても大切です。
日帰り手術は、患者さまの早期復帰を第一義としていますが
病気の悩みから解放されて初めて、安心して早期復帰して頂けるものと考えます。
本日は以上です。
ご一読いただき、ありがとうございました。
大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック
岩村 宣亜
鼠径ヘルニアの治療は当院を受診ください
JR大阪駅から徒歩3分の大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニックでは、鼠径ヘルニアを内視鏡(腹腔鏡)による日帰り手術で治療しています。
鼠径ヘルニアの症状があるなど、お困り・お悩みの方はぜひ当院を受診ください。