【解説】慢性疼痛ってなに?なぜ注意が必要?
大阪日帰り外科そけい ヘルニア クリニック
岩村宣亜(せんあ)です。
鼠径(そけい)ヘルニア(脱腸)の治療に限らず
医療行為を行う上で、合併症(副作用)を
避けて通ることはできません。
以前の回でもお話しましたが、
特に注意すべき、鼠径ヘルニア手術後の合併症に
『慢性疼痛』と『再発』があります。
なぜ、注意すべきなのでしょうか?
今回の項をお読み頂ければ
ご理解いただけるかと存じます。
当院で採用する腹腔鏡(内視鏡)下ヘルニア修復術は
鼠径部切開法に比べ、慢性疼痛の発症頻度が低いとする
エビデンスレベルの高い報告が多い*手術法です。
今回は、鼠径ヘルニア手術後の合併症である
慢性疼痛について、分かりやすくお話させて頂きます。
一般に、疼痛と言えば『急性』疼痛
手術後の痛みに関して、
疾患、手術方法や傷の大きさなどにより様々ですが
一ヶ月もすれば落ち着くことがほとんどです。
これに対して、慢性疼痛とは
手術後、三ヶ月もしくはそれ以上の期間
痛みが持続することを意味します。
(鼠径ヘルニア診療ガイドラインでは、術後3ヶ月の時点で存在し、
6ヶ月以上持続する疼痛、と定義されています)
鼠径ヘルニア手術後の慢性疼痛の発症頻度は、
海外の報告では15-53%、
本邦の報告では0.04-28%と報告されております**。
海外よりも低い確率ではありますが
決して低い数字ではないことは明らかです。
鼠径ヘルニアの治療はTension-free手術、つまり
組織に緊張をかけない目的からメッシュが用いられますが
メッシュを使わない手術でも同様に、
慢性疼痛の発症が報告されています。
『手術の痛みだけでも辛いのに、
手術後にも長期に渡り痛みが続く
このような事態は是が非でも避けたい』
治療を受けられる患者さまのみならず
治療する側の我々も同様に、そう考えています。
では一体、慢性疼痛の原因は何なのでしょうか?
原因1: 神経が起因する『神経因性疼痛』
神経が何らかの形で障害を受けたり
機能不全に陥ることで発症する痛みを
『神経因性疼痛』と呼びます。
鼠径ヘルニア術後の慢性疼痛の原因としては
これが最も多い理由とされています。
鼠径ヘルニアの手術操作が及ぶ場所には、
注意すべき神経が3本、走行しています。
・腸骨鼠径神経
・腸骨下腹神経
・陰部大腿神経陰部枝
これらの神経が手術中に損傷したり、
メッシュが治癒過程でよれて神経を巻き込むことで
神経因性疼痛が発症すると考えられています。
治療には、鎮痛剤の内服や局所麻酔の注射に加え、
神経ブロックなどが行われますが
痛みをすっきりと取り去ることが難しく
治療に難渋するケースがしばしばあります。
原因2: 炎症や機械的刺激が起因する『体性痛』
もうひとつの痛みの種類に、『体性痛』があります。
これは、メッシュの遅発性炎症や感染、
周囲組織への直接刺激などにより発症するとされています。
このタイプの疼痛は、鎮痛薬で比較的改善しやすく
神経因性疼痛に比べて管理しやすいという特徴があります。
内服の鎮痛薬や、局所麻酔の注射などを繰り返し行うことで
痛みが改善、消失する場合があります。
原因3: 混合性疼痛
神経因性疼痛、体性痛が混ざり合った病態を指します。
痛みは複数の原因が絡み合って起こることも多く
原因を指摘する事が難しい場合は少なくありません。
神経因性疼痛、体性痛の治療が組み合わされます。
改善しない場合、外科手術が必要な場合も
投薬や注射など、いわゆる内科的治療で
疼痛が改善しない場合、
最終手段として外科手術が行われる場合があります。
メッシュそのものを取り去ったり、
痛みの原因と考えられる神経を切除したりと
様々な手術方法が取られる一方で、
これをすれば治る、という手術方法はありません。
疼痛管理を専門とする医師に診療を依頼するケースも多く
専門性が非常に高い病態です。
鼠径ヘルニアという病気がなくならない限り、
術後の慢性疼痛も無くなることはありません。
当クリニックとして出来ることは、
最新のエビデンスを追い求めながら
とにかく慢性疼痛を起こさない方法について
模索し続けることだと認識しています。
本日は以上です。
ご一読いただき、ありがとうございました。
大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック
岩村 宣亜
(参考文献)
* 鼠径部ヘルニア診療ガイドライン 2015
** 成田ら。消化器外科学会雑誌 2017
鼠径ヘルニアの治療は当院を受診ください
JR大阪駅から徒歩3分の大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニックでは、鼠径ヘルニアを内視鏡(腹腔鏡)による日帰り手術で治療しています。
鼠径ヘルニアの症状があるなど、お困り・お悩みの方はぜひ当院を受診ください。