なぜ女性の鼠径ヘルニア(脱腸)診療は難しい?専門医がポイントを解説!
大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック 院長の岩村宣亜(せんあ)です。
当院は鼠径ヘルニア(脱腸)の日帰り内視鏡(腹腔鏡)手術専門のクリニックです。
直近では月間50件以上の手術を行っており、関西一円をはじめ、中国・中部・北陸地方からもご来院を頂いております。
鼠径ヘルニアとは、鼠径部(足の付け根)の筋肉に穴が開き、内臓が脱出する病気のこと。
40代以上の成人男性に多く発症し、立つと鼠径部にピンポン玉大の膨らみが現れ、寝ると凹むという特徴があります。
鼠径ヘルニアの男女比は5:1〜10:1程度とされており、男性ほど多くはありませんが女性も鼠径ヘルニアを発症します。
女性の鼠径ヘルニアは男性に比べて病態が複雑であることから、専門医以外は正確な診断や治療方法の提案が難しい分野です。
本日はなぜ女性の鼠径ヘルニアの診療が難しいのか、また女性の鼠径ヘルニアで注意するべきポイントや適切な治療方針について、わかりやすくご説明をいたします。
女性の鼠径ヘルニアは症状が現れにくく診断が難しい
女性の鼠径ヘルニアは男性に比べて一般に膨らみのサイズが小さく、ピンポン玉大にまで膨らむと既にかなり進行した状態と言えます。
常時膨らみが出ていない、膨らみがあっても母指頭大程度と小さい、という患者さまが多く
診察時に膨らみが出ていないと、慣れていない医師では正確な診断が難しいことがしばしばあります。
そのため、『膨らみが出ていない状態でも診察可能でしょうか?』というお問い合わせをしばしば頂きますが、
専門医が適切に診察を行うと、エコー検査でほとんどの場合診断がつきますので、受診いただくのにタイミングを計る必要はございません。
ヌック管水腫や異所性内膜症といった複雑な病態が隠れている可能性
女性の鼠径ヘルニアに合併する疾患として、ヌック管水腫や鼠径部異所性内膜症があります。
ヌック管水腫とは、鼠径部(具体的には鼠径管という構造物の中)に存在する水が溜まった袋のことであり
胎生期に子宮円索(子宮を支える靱帯)の発生過程で腹膜が鼠径管の中に遺残し、内部に水が溜まることで発症します。
無症状の場合は経過観察をする場合もありますが、生理周期に連動する鼠径部の痛みや張り、膨らみの増大がある場合などは注意が必要であり
鼠径部異所性内膜症が紛れている可能性があることから、手術が必要となる場合もあります。
鼠径部異所性内膜症はすべての子宮内膜症の1%未満を占める比較的稀な疾患であり、稀に悪性化する危険性を有していることから、原則として手術が推奨されています。
この異所性内膜症は、外科的切除と病理検査を経て初めて診断し得るものであり、鼠径部異所性内膜症は特に希少疾患で症例数が少ないことから
術前から適切な診断を行うのは、たとえ専門医であっても困難とされています。
メッシュ使用の是非:妊娠時の違和感や疼痛を引き起こす可能性
鼠径ヘルニアの治療には再発予防の観点からメッシュを使用することが主流となっていますが
妊娠を希望される女性患者さまに対しては、妊娠時に違和感や疼痛の原因となる可能性があることから、メッシュの使用を慎重に検討する必要があります。
一般に、組織修復法とメッシュ法において再発率は明らかにメッシュ法で低いことがわかっていますが
乳幼児や若年者、ヘルニアの種類などに応じてメッシュが必ずしも必要ではない場合もあり、メッシュの適応については専門医の間でも見解が分かれます。
メッシュ使用が妊孕性(妊娠のしやすさ)に与える影響を考慮する必要はないとされており、現状、不妊の心配は必要ありません。
妊娠時の違和感や疼痛は必ずしも現れるとは限らないことと、メッシュの必要性が高い場合にメッシュ使用を避けると再発のリスクが高まってしまうことから
妊娠希望の女性患者さまにおいては、メッシュ使用を過剰なまでに忌避する必要はなく、主治医との相談の上で決定することが大切です。
腹腔鏡手術の有用性:女性に多い『隠れた鼠径ヘルニア』を見逃さない
鼠径ヘルニアのひとつ、大腿ヘルニアとは、太腿を栄養する血管(大腿動静脈)の脇に穴が開き、臓器が脱出する疾患のこと。
多産・痩せ型の高齢女性に多く、嵌頓(腸が詰まって抜けなくなること)のリスクがその他の鼠径ヘルニアに比べて高いことから
鼠径ヘルニアの中でも手術の優先度が最も高い疾患です。
従来の鼠径部切開法では、大腿ヘルニアの検索や修復が出来ないことから、しばしば術中に見逃しが起こり
手術後数ヶ月や数年で再発する(正確には隠れた大腿ヘルニアが発症に至る)というケースが散見されます。
これに対し、腹腔鏡手術においては、腹腔内から広い範囲を観察するため、大腿ヘルニアを含めた鼠径ヘルニアの見逃しが起こりません。
このため、国内外のガイドラインにおいて、女性の鼠径ヘルニアに対する腹腔鏡手術の重要性が明記されています。
女性の鼠径ヘルニアは、専門医の受診を強く推奨します
いかがだったでしょうか?
女性の鼠径ヘルニアには、症状が現れにくく分かりにくい、ヌック管水腫や異所性内膜症など別疾患が隠れている可能性、妊娠希望に対するメッシュ仕様の是非や大腿ヘルニアなど隠れたヘルニアの可能性などから
男性ほど治療方針が明確ではなく、患者さま一人ひとりに応じた診療プランを立てる必要があります。
女性の鼠径ヘルニア診療は、複雑が故に専門外の医師にとって『正直なところよくわからない』というのが本音だと思います。
それは私自身も、専門外である他科疾患、さらには希少性の高い疾患となると完全にお手上げになるのと同じ理屈であり
『分からないものを無理に分かろうとしたり、分かったふりをする必要』はなく、『専門医に適切に一任する』これが患者さまにとって最もメリットが大きい選択肢だと考えます。
鼠径ヘルニアの治療は当院を受診ください
大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニックは、鼠径ヘルニア(脱腸)に対する日帰り内視鏡手術を専門としたクリニックです。
開院後一年で累積手術件数は550件以上、直近は月間50件以上の手術件数を有し、関西一円を中心に中国地方・中部地方・北陸地方など、広範囲からご来院を頂いております。
メッシュを用いた腹腔鏡手術を中心に、鼠径部切開法やハイブリッド手術、メッシュを使用しない手術方法など、患者さま一人ひとりに応じたオーダーメイドの治療プランをご提案しております。
女性の鼠径ヘルニアは、当院にお任せ下さい。
鼠径部の違和感や痛み、膨らみやしこり、生理周期に連動した痛みなどで悩まれている患者さまは鼠径ヘルニアの可能性があります。お気軽にお問い合わせ下さいませ。