【解説】女性も鼠径ヘルニアになるの?治療を受けるべき?
大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック
岩村宣亜(せんあ)です。
鼠径ヘルニア(脱腸)は鼠径部(太腿の付け根)の筋膜の緩みが原因で
鼠径部のお腹の壁に穴が開き、皮膚の下に内臓が飛び出す病気のこと。
立つと膨らみ、寝ると凹むという、典型的な症状があります。
男性は女性の5〜10倍程の発症率とも言われており、圧倒的に男性に多い病気なのですが
女性の鼠径ヘルニアの患者さまも、実のところ多くご来院されます。
本日は女性の鼠径ヘルニアについて、以下の順に一問一答形式でわかりやすくお話します。
Q1. 女性でも鼠径ヘルニアになるの?
Q2. 女性の鼠径ヘルニア、原因は?
Q3. 女性の鼠径ヘルニア、どんな症状?
Q4. 女性の鼠径ヘルニア、特徴は?
Q5. 女性の鼠径ヘルニア、放置していても大丈夫?
Q6. 女性の鼠径ヘルニア、何科を受診すれば良い?
Q7. 女性の鼠径ヘルニア、治療方法は?
Q8. メッシュを敷いても妊娠、出産に問題ない?
Q9. 鼠径部切開法と内視鏡手術、どちらが良い?
Q10. 女性の鼠径ヘルニア、鑑別疾患は?
(閉鎖孔ヘルニアは厳密には鼠径ヘルニアではありませんが、同じ腹腔鏡手術で治療が可能であり、本項では鼠径ヘルニアとして扱います)
Q1. 女性でも鼠径ヘルニアになるの?
A1. 女性でも鼠径ヘルニアを発症します
鼠径部は体壁の中でも緩みが出やすい場所であり、
全ての女性に鼠径ヘルニアを発症する可能性があります。
若年女性に多い【外鼠径ヘルニア】や、中高年女性に多い【内鼠径ヘルニア】
痩せ型で中高年の女性に多い【大腿ヘルニア】や【閉鎖孔ヘルニア】など
男性ほど多くはないものの、女性にも鼠径ヘルニアの発症があります。
Q2. 女性の鼠径ヘルニア、原因は?
A2. 体質、生活習慣、組織の経年変化、妊娠出産、など
若年女性に多い【外鼠径ヘルニア】や、中高年女性に多い【内鼠径ヘルニア】は
体質や職種、生活習慣などが原因で発症に至ります。
また、大部分が女性に発症する【大腿ヘルニア】や【閉鎖孔ヘルニア】は
痩せ型の女性が妊娠出産を経ることで発症しやすくなります。
Q3. 女性の鼠径ヘルニア、どんな症状?
A3. 鼠径部の膨らみ、寝ると凹む、違和感や痛み、など 生理周期に関与する場合も
基本的に、鼠径ヘルニアの症状に男女差はありません。
鼠径部の膨らみ、寝ると凹む、違和感や痛み、全く無症状など、様々です。
ただし女性の場合、症状が生理周期に応じて変動する可能性があります。
Q4. 女性の鼠径ヘルニア、特徴は?
A4. 嵌頓しやすい、複数の鼠径ヘルニアが併存する可能性、鼠径部の膨らみに気付きにくい、など
嵌頓(かんとん)とは、ヘルニア部位に臓器が詰まり抜けなくなる病態のこと。
詰まる臓器は内臓脂肪や腸、女性の場合は卵巣など様々ですが
腸が詰まることで、腸閉塞や腸の血流不全を起こし、緊急手術や腸切除が必要になる可能性があります。
女性の鼠径ヘルニアの手術中、別の鼠径ヘルニアが見つかる場合があります。
特に中高年の患者さまの場合、【大腿ヘルニア】や【閉鎖孔ヘルニア】が隠れている場合があり
この場合は身体診察だけでは判断がつかない場合があります。
隠れた鼠径ヘルニアを手術中に見逃してしまうと、後になって再発する可能性があります。
【閉鎖孔ヘルニア】など一部の病態においては、鼠径部の膨らみが分かりにくく
発症していても、自分で気が付かない場合があります。
Q5. 女性の鼠径ヘルニア、放置していても大丈夫?
A5. 診断がつき次第、原則治療を検討するべき
女性の鼠径ヘルニアは男性に比べて嵌頓のリスクが高く
緊急手術や腸切除の可能性が高いため、診断がつけば原則治療を検討するべきです。
こと大腿ヘルニアや閉鎖孔ヘルニアは嵌頓を起こしやすく
突然の腹痛や鼠径部痛と共に鼠径ヘルニアの発症に気付く、というケースもあります。
腸壁が直接詰まることで血流不全に至りやすく、腸切除の可能性が高まります。
Q6. 女性の鼠径ヘルニア、何科を受診すれば良い?
A6. 消化器外科、中でも鼠径ヘルニア専門医の受診をお勧めします
女性の鼠径ヘルニアは、鼠径ヘルニア診療に精通していない医師の場合
きちんとした診断に至らない場合や、最適な治療法のご提案ができない場合があります。
鼠径ヘルニアの専門医を受診し、ご自身に最も適した治療法を相談することを強くお勧めします。
Q7. 女性の鼠径ヘルニア、治療方法は?
A7. メッシュを敷く治療法が基本、患者さまに応じてそれ以外も
鼠径ヘルニアの治療法は、筋肉の穴にメッシュを引くことで穴を塞ぎ
臓器の脱出を防ぐ方法(メッシュ法)が基本となります。
メッシュを使用しない組織縫合法という方法もありますが
メッシュ法に比べて再発率が高く、原則推奨されていません。
ただし、小児や若年女性など一部の患者さまにおいては、
メッシュの使用が不適切な場合があり、患者さまに応じた治療方法が検討されます。
Q8. メッシュを敷いても妊娠、出産に問題ない?
A8. 専門家の間でも解釈が分かれています
メッシュを敷くことで妊娠しにくくなる、というエビデンスは現時点ではありません。
一方で、妊娠時の体壁の伸びに対してメッシュが十分に伸びない可能性があり
痛みや違和感など諸症状の原因になる可能性が指摘されています。
このため、メッシュを製造する各メーカーは添付文書において
【警告】や【禁忌】【使用上の注意】など、様々な形で認知を促しています。
これらを踏まえた上でも、妊娠希望のある女性にメッシュを使用するかどうかは
専門家の間でも解釈が分かれています。
当院では、妊娠希望のある患者さまにメッシュを使用をするかどうかは
患者さまと相談の上、慎重に適応を検討しております。
Q9. 鼠径部切開法と内視鏡手術、どちらが良い?
A9. 原則、内視鏡手術が推奨されます
女性の鼠径ヘルニアは身体診察ではわからない鼠径ヘルニアが隠れている場合があり、
手術中の判断が非常に重要です。
内視鏡(腹腔鏡)手術は5mm程度の傷からお腹の中に内視鏡を挿入する方法ですが
お腹の中をカメラで一望できるため、隠れた鼠径ヘルニアの見逃しがありません。
このため、女性の鼠径ヘルニア治療には内視鏡手術が推奨されています。
(若年女性でメッシュを用いない場合など、一部の例外を除きます)
Q10. 女性の鼠径ヘルニア、鑑別疾患は?
A10. ヌック管水腫、子宮円策静脈瘤、鼠径部リンパ節腫脹など
ヌック管水腫とは、鼠径部に水腫(水が溜まった袋)ができる病気のこと。
鼠径部に膨らみがあり、鼠径ヘルニアと見た目での鑑別は難しく、鼠径ヘルニアを合併している場合もあります。
ヌック管水腫やすぐ側を走る子宮円策(子宮を支える靭帯)に異所性内膜症を合併する可能性があることから、診断がついた場合は原則治療を推奨しております。
治療法は、水腫の切除、鼠径ヘルニア併存の場合は同時に治療が行われます。
子宮円策静脈瘤とは、妊娠中に子宮円策の中を通る血管に瘤ができる病気のこと。
鼠径部の膨らみがあり一見鼠径ヘルニアと区別がつきませんが、痛みを伴う場合も多く
妊娠終了とともにほとんどが自然軽快します。
鼠径部リンパ節は、鼠径部にしこりとして触れる臓器であり、
感染などで腫れた場合のみならず、正常なリンパ節でも触れることがあります。
女性の鼠径ヘルニア、自己判断での放置は危険
いかがだったでしょうか?
女性の鼠径ヘルニアの患者さまは、決して少数ではありません。
鼠径部に気になる症状をお持ちの患者さまは、是非、鼠径ヘルニア専門医の受診をお勧めします。
本日は以上です。
ご一読いただき、ありがとうございました。
大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック
岩村 宣亜
鼠径ヘルニアの治療は当院を受診ください
JR大阪駅から徒歩3分の大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニックでは、鼠径ヘルニアを内視鏡(腹腔鏡)による日帰り手術で治療しています。
鼠径ヘルニアの症状があるなど、お困り・お悩みの方はぜひ当院を受診ください。