【解説】その症状、鼠径ヘルニアじゃないかも?
大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック
岩村宣亜(せんあ)です。
鼠径ヘルニア(脱腸)の最も典型的な症状は
『片方の鼠径部(太ももの付け根)が立って膨らみ、寝て凹む』
というものです。
鼠径部に開いた筋肉の穴に腹圧がかかることで
立った状態ではピンポン玉の様に膨らみ
横になることで圧が抜け、膨らみが完全に消えます。
この症状をお持ちの場合、ほぼ鼠径ヘルニアで間違いなく
ご自身でもご判断いただくのが可能かと思われます。
しかしながら、他にも似たような症状の疾患が存在し
現場でも時々、判断に迷う場面があります。
本日は、鼠径ヘルニアの鑑別疾患(区別すべき疾患)について
分かりやすくお話させて頂きます。
その1: 鼠径部リンパ節腫脹
鼠径部のリンパ節が腫れた状態を指します。
リンパ節とは、リンパ液の流れをせき止める関所のようなもので
リンパ液を流れる細菌やウイルス、癌細胞などをせき止めて
感染防御や異物排除の役割があります。
あまり体表から触れることはありませんが
感染や血液の癌などにより病的に腫れ上がることで
体表から触れることがあります。
この場合、横になっても凹むことはなく
コリコリと固い豆のような塊を触れることで
ほとんどの場合、区別が可能です。
補助診断として超音波検査を行うことで、
鼠径ヘルニアとの鑑別が可能です。
その2: 動脈瘤、静脈瘤
血管がこぶのように腫れ上がった病態を指します。
鼠径部を走る血管が、何らかの原因で腫れ上がることで
片方の鼠径部が膨らんで見えます。
硬い壁で、ドクドクと拍動がある動脈瘤や
柔らかくて拍動のない静脈瘤があります。
血管は長い管のような形をしており、
ピンポン玉のような形の鼠径ヘルニアとは形が異なることや
横になっても膨らみが消えないことから
鼠径ヘルニアとの鑑別が可能です。
超音波検査を行うことで、
内部に血液が流れていることが確認できます。
その3: 軟部腫瘍、膿瘍
一般的なできものや、膿溜まりのことを意味します。
これらは、皮下と呼ばれる皮膚の浅い部分に出来ることが多く
触ると硬さがあったり、
膿の場合はブヨブヨとした液の溜まりを触れます。
また、横になっても膨らみが完全に消えることはないため
ご自身でも鼠径ヘルニアとの区別が
比較的つきやすいかと思われます。
その4: Nuck(ヌック)管水腫
最も鼠径ヘルニアとの鑑別が難しい疾患です。
20〜40代の女性に好発する比較的稀な病気で、
水腫、いわゆる水が溜まった袋が
鼠径ヘルニアと同じ場所(鼠径管内)にできることで
一見、鼠径ヘルニアによく似た状態になります。
男性にも、精索水腫や陰嚢水腫といって
同じような病態を来すことがありますが、
一歳未満に好発し、ほとんどの場合自然治癒します。
一方で、女性の場合は成人になって気付くことが多く
身体診察のみでは鼠径ヘルニアとの鑑別が困難な場合があります。
また、鼠径ヘルニアをしばしば併発することから
鼠径ヘルニアの治療時にヌック管の存在に気付く、
また逆も然り、という場合があります。
そもそも、
『単なる水溜まりなのに治療の必要あるの?』
という疑問もあるかと存じますが
- 一部に異所性子宮内膜症を伴う
- ごく稀に悪性化の可能性がある
- 鼠径ヘルニアがしばしば併存する
- 見た目を気にされて治療を希望される
こういった理由から、
ヌック管水腫を認めた場合は
治療を行うか、慎重な経過観察が求められます。
治療は、水の溜まった袋ごと切り取ります。
針を刺して水を抜いたとしても、
またすぐに水が溜まってしまうからです。
鼠径ヘルニアを併発する場合は、同時の治療が可能です。
超音波検査や腹部CT検査を行うことで、
鑑別の一助になる場合があります。
ご自身での判断、危険な場合があります
先に挙げましたように、鼠径ヘルニアは
わかりやすい典型的な症状であることから
ご自身である程度、判断がつく疾患です。
横になった際に膨らみが消えることが典型的ですが、
嵌頓(かんとん)を来した場合など
中に腸などの臓器が詰まってしまうことで
横になっても膨らみが消えない場合があります。
こういった理由から、
少しでも疑った際には速やかに医療機関に相談し、
ご自身の判断で経過をみることがないよう
ご配慮いただくことが大切です。
本日は以上です。
ご一読いただき、ありがとうございました。
大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック
岩村 宣亜
鼠径ヘルニアの治療は当院を受診ください
JR大阪駅から徒歩3分の大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニックでは、鼠径ヘルニアを内視鏡(腹腔鏡)による日帰り手術で治療しています。
鼠径ヘルニアの症状があるなど、お困り・お悩みの方はぜひ当院を受診ください。