【疑問】切開法と内視鏡手術、どちらが良いの?
大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック
岩村宣亜(せんあ)です。
鼠径(そけい)ヘルニア(脱腸)の手術には、大きく分けて以下の二種類があります。
- 鼠径部切開法
- 内視鏡(腹腔鏡)手術
治療を検討されている患者さまからは、しばしばこんな質問があります。
『結局どちらが良いの?』
『自分では選べないから決めて欲しい』
まず前提として、これらの手術方法に成績の優劣はありません。
一方で、違った側面から見た特徴の違いがあります。
本日は、それぞれの手術方法の特徴について
分かりやすくお話させて頂きます。
当クリニックは、全国的にも珍しい
日帰り内視鏡手術(TAPP法)を専門とするクリニックです。
そもそもはアプローチ法(到達方法)の違い
端的に言うと、上記の2つの選択肢の違いは、
『どうやってヘルニア部位に到達するか』にあります。
(専門用語でアプローチと呼びます)
鼠径部切開法は、鼠径部に4cm程度の切開を置いて、
ヘルニア部位に『前方から』到達します。
一方で、内視鏡手術はお腹に5〜10mm程度の切開を3ヶ所置き、
細長いカメラと鉗子を使い、お腹を経由して
ヘルニア部位に『裏側から』到達する方法です。
次項ではもう一歩踏み込んだ上で、
それぞれの特徴について詳しくお話させて頂きます。
※治療をメリット・デメリットと表現するのは適切さに欠けますが
この場では敢えてそのように記載させて頂きます。
鼠径部切開法のメリット・デメリット
鼠径部切開法は、ヘルニア部位を修復する方法に応じて
以下の方法に分かれています。
- 組織縫合法: 組織を縫い合わせてヘルニア部位の穴を縫い閉じる方法
- リヒテンシュタイン法: ヘルニア部位を含む鼠径部全体を、前側からシート状メッシュで覆う方法
- プラグ法: プラグと呼ばれるメッシュ由来の人工補強材を使って、ヘルニア部位に上から栓をする方法
- 腹膜前修復法: ヘルニア部位の裏側(筋膜の穴の裏)に広くシート状メッシュを挿入する方法
メッシュを使用する手術は、いずれも治療成績に優劣なく
安全に行われています。
一方で、組織縫合法はメッシュを用いない代わりに
疼痛や再発が多いと報告されています。
また、切開法には内視鏡手術に比べて
以下のようなメリット・デメリットがあります。
メリット
- 古くから採用されている手術方法
- 局所麻酔、脊髄麻酔での手術が可能
- 手術時間が短い(片方40分程度)
- 治療費が安価(日帰り、高額療養費制度適応で約60,000円)
デメリット
- 傷が大きい(片方4cm程度)
- 術後合併症の慢性疼痛の頻度が高い
- 稀に隠れた別の鼠径ヘルニアが見逃されることがある
- 両側鼠径ヘルニアの日帰り同時手術が困難(両側に傷ができるため)
また、安全な全身麻酔が困難と判断される方は
内視鏡手術が受けられないため、必然的に鼠径部切開法が選択されます。
内視鏡手術のメリット・デメリット
内視鏡手術は以下の二種類の方法に分かれています。
- TAPP法: お腹の中(腹腔内)を通って、ヘルニア部位に裏側からシート状メッシュを挿入する方法
- TEP法: 腹腔内から膜一枚外側の腹膜前腔を通って、ヘルニア部位に裏側からシート状メッシュを挿入する方法
(出典:日本ヘルニア学会)
TAPP法、TEP法は治療成績や合併症などの観点から
同等の手術方法として取り扱われています。
また、内視鏡手術には鼠径部切開法に比べて、
以下のようなメリット・デメリットがあります。
メリット
- 傷が小さく、痛みが少ない
- 術後合併症の慢性疼痛が少ない
- 両側の鼠径ヘルニアを同じ傷、日帰りで同時に治療が可能
- 稀にある隠れた別の鼠径ヘルニアを見逃さない
- ガイドライン上、女性の鼠径ヘルニアに推奨
デメリット
- 手術時間が長い(60分程度)
- 習熟した外科医の技術が必要
- 全身麻酔が必要
- 治療費が高価(高額療養費制度適応で約80,000円)
優劣ではなく、安全・確実な手術を
いかがだったでしょうか?
治療成績に明らかな優劣があれば、
劣っている手術方法は今頃、廃れていると思います。
紹介した手術方法には、一部を除き治療成績には優劣がありません。
一方で、それぞれの特徴に違いがありますので
治療を選ぶ際のきっかけにして頂ければ幸いです。
私自身、患者さまに一番お伝えしたいことは
手術において最も大切なことは、傷の大きさやアプローチ法では無く
『いかに安全かつ確実に、質の高い医療を提供できるか』
これに尽きます。
一方で、医療や技術の進歩もあり、古くからの治療法に対して
新しい治療法の存在感が日に日に増しているのも事実です。
ひと昔前は先進医療とされていた内視鏡手術も、
現在においては、ごく一部の高難易度手術を除き
安全性・確実性を兼ね備えた治療法として確立されています。
当クリニックで第一選択とするTAPP法は、
傷が小さく痛みが少ない、日帰りに適した方法であると同時に
私自身が受けたい手術でもあります。
本日は以上です。
ご一読いただき、ありがとうございました。
大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック
岩村 宣亜
鼠径ヘルニアの治療は当院を受診ください
JR大阪駅から徒歩3分の大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニックでは、鼠径ヘルニアを内視鏡(腹腔鏡)による日帰り手術で治療しています。
鼠径ヘルニアの症状があるなど、お困り・お悩みの方はぜひ当院を受診ください。