【解説】メッシュってなに?なぜ必要?
大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック
岩村宣亜(せんあ)です。
鼠径(そけい)ヘルニア(脱腸)の手術は、
鼠径部(太ももの付け根)に開いた筋膜の穴を閉じる方法に応じて、
大きく以下の二つに分かれます。
- 組織縫合法
- メッシュ法
成人鼠径ヘルニアの診療においては、
メッシュ法が採用されることが圧倒的に多い一方で
『メッシュってどんなもの?』
『なぜメッシュを使う必要があるの?』
『体に異物を入れるのが不安』
などのご質問、ご不安があるかと存じます。
本日は、鼠径ヘルニア手術で用いるメッシュについて
分かりやすくお話させて頂きます。
成人鼠径ヘルニア手術にメッシュが必要な理由
鼠径ヘルニア手術で用いるメッシュとは、
ポリプロピレンに代表される合成繊維から作られています。
手術方法に応じて沢山の種類がありますが、
当院で行う内視鏡手術で用いるメッシュのサイズは、
一般的なもので約10cm〜15cm四方です。
これ一枚を、片側の手術に使用します。
(両側の場合は、左右に一枚ずつ使用します)
(引用: Medtronic社HP)
メッシュの使用が日常診療に普及し始めたのは1990年代頃とされており、
これ以前にはメッシュを使用しない手法が主流でした。
これを『組織縫合法』と呼び、
文字通り、穴を縫い閉じることでヘルニアを修復する方法です。
(Marcy法、Bassini法、McVay法やShouldice法など)
組織縫合法は、現在においても小児や若年者、
軽症の鼠径ヘルニアに対して選択される場合がありますが
組織縫合法は、概してメッシュ法に比べて再発が多く、疼痛が強いため
ガイドライン上、成人鼠径ヘルニアに対しては原則推奨できないと結論付けられています。
成人鼠径ヘルニアに対してメッシュが用いられるのは、こうした理由があるためです。
シート状のメッシュを使用する理由
当院でも採用する鼠径ヘルニアの内視鏡手術においては、
腹膜前修復法という手法が採用されています。
腹膜とは、お腹の中(腹腔内)を裏打ちする最も深い層にある膜であり
鼠径ヘルニアはその外側にある『筋膜(=お腹の壁、腹壁)』に穴が開いている状態です。
このため、腹膜前(=腹膜の外側=筋膜の内側)にメッシュを挿入することで
内側からかかる腹圧から、筋膜の穴を守ることが可能となります。
(筋膜の外側にメッシュを挿入する方法もあるのですが、
この場合、理論的には内側からの腹圧から筋膜の穴を守る力が弱くなります)
例えると、ラムネの瓶をひっくり返すと、
中にあるビー玉が内側から入り口に嵌り込むことで、
中身が漏れ出るのを塞ぐイメージです。
シート状のメッシュが用いられる理由は、
ヘルニア部位に『点』でかかる腹圧を、メッシュを用いて『面』で受け止めることで
均一に腹圧を逃すためです。
(出典: 日本ヘルニア学会HP)
このため、メッシュがズレたり捻れたりすることは、
『腹圧を均一に逃す』と言うメッシュ本来の役割を妨げてしまいます。
手術後早期(一、二週間以内)の激しい運動や重労働は禁止させて頂いておりますが、
その理由はメッシュのズレや捻れが起こってしまうことから、
手術直後の再発の懸念があるためです。
ご理解頂ければ幸いです。
内視鏡手術におけるシート状メッシュの役割
シート状メッシュが用いられるもうひとつの理由として、
一枚で広い範囲を覆う事が可能であることが挙げられます。
鼠径ヘルニアにはいくつか種類があり、
二つ以上のヘルニアが同時に存在することもあるため
鼠径部切開法で単一の手術方法を行う場合、
隠れているもうひとつのヘルニアを見逃してしまう可能性があります。
一方で、内視鏡手術においては
鼠径部をカメラを用いて俯瞰する(広く一望する)ため
隠れているヘルニアがないかどうか、一目で確認が可能です。
これに加えて、シート状のメッシュを用いることにより
2つのヘルニアがある場合は2つ同時に、
また将来的にヘルニアが起こり得る部位を
一枚のメッシュで広く覆う事が可能となります。
隠れているヘルニアまで発見して、
一枚のメッシュで同時に治療する。
内視鏡手術には、こういったメリットがあります。
メッシュの歴史から見た安全性
鼠径ヘルニア診療に初めてメッシュが用いられてから、
実に五十年以上が経過しています。
現在メッシュに使用されているポリプロピレンは、
生体適合性が高く拒絶反応を起こしにくい素材として、
メッシュ以外にも様々な医療用用途で使用されており
例えば、体内で血管を縫合する時に使用する縫合糸
(=必然的に体内に残る糸)にもポリプロピレンが使用されています。
体内に残るものであることから、神経質になるのも当然かと存じますが
私自身、患者様には『安心して使用可能です』と、
自信を持ってお伝えしております。
本日は以上です。
ご一読いただき、ありがとうございました。
大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック
岩村 宣亜
鼠径ヘルニアの治療は当院を受診ください
JR大阪駅から徒歩3分の大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニックでは、鼠径ヘルニアを内視鏡(腹腔鏡)による日帰り手術で治療しています。
鼠径ヘルニアの症状があるなど、お困り・お悩みの方はぜひ当院を受診ください。