鼠径ヘルニア(脱腸)は外科を受診!泌尿器科と間違える理由とは
大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック 岩村宣亜(せんあ)です。
当院では、鼠径ヘルニア(脱腸)の日帰り腹腔鏡手術に特化した診療を行っており、昨今の手術件数は月間50件以上を誇ります。
外来ではしばしば、泌尿器科を受診した後に当院を受診される患者さまをお見かけします。
『何の病気かわからず、とりあえず泌尿器科を受診した』というお声をよくお聞きしますが、鼠径ヘルニアは古くから、泌尿器科ではなく外科(消化器外科)が取り扱う疾患です。
鼠径ヘルニアの成り立ちを紐解くと、なるほど間違えるのも道理と考える一方で、さらに啓蒙が必要だと実感します。
本日は、鼠径ヘルニアが泌尿器科疾患と間違えられやすい理由、外科が専門である理由や経緯について、分かりやすくお話致します。
最大の理由は『症状がある場所が陰部に近いから』
鼠径ヘルニアには『鼠径部が立つと膨らみ、寝ると凹む』という典型的な特徴があります。
膨らむ場所は、恥骨の外側、足の付け根の付近であり、陰部とすぐ近くに症状が現れます。また、進行するにつれ、男性の場合は陰嚢の中にまで膨らみが下がってきます。
違和感や痛みを伴うこともあり、その多くは鼠径部や下腹部、睾丸といった場所に現れます。また、他人に見せるのが拒まれる、恥ずかしいという心理もあるのでしょう。
このような理由から、直感的に泌尿器科疾患を連想されるのだと考えます。
外鼠径ヘルニアと生殖器との関係性
外鼠径ヘルニアとは、鼠径管と呼ばれる通路のような構造物の中を通り、ヘルニアが脱出する病態のことであり、鼠径ヘルニアの中で最も多い割合を占めます。
鼠径管とは、お腹の中(腹腔内)と外(皮下)を繋ぐ通路のような構造物であり、男性の場合は精索(精巣動静脈や精管がひとまとまりに束状になった構造物)、女性の場合は子宮円索が通過しています。
簡単に言うと、鼠径部の筋膜には生まれつき、小さな穴が開いているのです。この小さな穴、通常は生まれる前に閉鎖するのですが、閉鎖しなかった場合には年単位の経過を経て鼠径管が開き、外鼠径ヘルニアの発症に至ります。
このように、生殖器が通る通路を経てヘルニアが脱出することから、ヘルニアに伴う症状が陰部に近くなるのは必然的とも言えます。
鼠径部はそもそも下腹部の一部分、加齢や腹圧で穴が開く
『鼠径部』を広辞苑で調べると、
【下腹部のうち足に接する部分。臍部(さいぶ)の下に接する範囲を恥骨部といい、その両側の三角形状の範囲をさす。股(また)のつけ根。】
とあるように、鼠径部とは下腹部の一部分です。
鼠径部とは、外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋といった複数の筋膜が重なり層状に形成する部位である一方で加齢により筋膜が薄くなり、緩みが出やすい部位であることから、加齢は鼠径ヘルニア発症の大きな要因のひとつです。
腹圧や重力に従って内臓脂肪や腸が下腹部や骨盤に向けて落ちてくる一方、それを支える筋膜は加齢と共に弱くなる一方であるため、あるタイミングを境に支えきれなくなり、穴が開いて臓器が脱出してしまいます。水が入ったバケツの底に穴が開いて水が漏れるようなイメージです。
このように、鼠径ヘルニアは本来『体壁(腹壁)』の疾患です。
腸や生殖器といった臓器が症状や合併症に絡むことで複雑になりがちですが、体壁の疾患だと考えれば理解がスムーズに進むかも知れません。
外科と泌尿器科の棲み分け:取り扱う臓器の違い
最後に、外科系診療科に関する少し専門的なお話です。
泌尿器科は生殖器や腎泌尿系の疾患を取り扱う診療科であり、精巣や前立腺、膀胱といった臓器そのものの疾患は泌尿器科が専門となります。婦人科も同様に、女性の生殖器を主に取り扱う診療科です。
一方で、外科(消化器外科)とは、文字通り消化器系の臓器を取り扱う一方、【その他】の腹部の全てを取り扱うという棲み分けがあります。
先に述べたように、鼠径ヘルニアとは体壁(腹壁)の疾患であり、正に【その他】に該当することから、外科の専門領域となります。
これに加えて、鼠径ヘルニアの合併症のひとつである『嵌頓』を起こした場合、腸に関する知見が不可欠となります。
嵌頓を起こした場合、腸閉塞や腸の血流不全(虚血や鬱血)を引き起こすことから、これらの病態の管理が必要であったり、手術の際には嵌頓を解除した腸がまだ元気かどうか(切除が不要かどうか)、その場の判断が必要となります。
このように、体壁の疾患であることに加え、腸の取り扱いに慣れた外科(消化器外科)が最も適した診療科と言えるのではないか、と考えます。
一方で、お腹の中である以上、外科と泌尿器科、外科と婦人科など、二つ以上の専門性にまたがる場合もあるため、実のところ泌尿器科や婦人科の医師も、腸の取り扱いには慣れているのが実状です。
インターネットの普及と鼠径ヘルニアの認知
いかがだったでしょうか?
下腹部の膨らみを見ただけで『鼠径ヘルニアの疑いがある』と判断できる人はごく一部だと思います。
昔はそのまま放置していたり、かかりつけの医師に相談しても『まだ小さいから様子を見てても良い』と指示されるケースがほとんどだったのでは、と考えます。
一方で、インターネットの普及は、鼠径ヘルニアの認知度の向上にとても大きな役割を果たしていると実感します。
今日においては『足の付け根 膨らみ』『足の付け根 痛み』『下腹部 膨らみ』などで検索すると、上位には疾患に関するページが複数並びます。
鼠径ヘルニアのみならず、希少疾患や認知度の低い疾患に対するインターネットの有用性はとても大きいと実感を致しますが、ネット上には間違った医療情報も少なくないことから、我々専門医が啓蒙活動を行うことは非常に大切だと考えます。
今後とも鼠径ヘルニアの啓蒙活動により一層、尽力して参ります。
当院では、鼠径ヘルニア(脱腸)の日帰り治療に特化した診療を行っております。
お仕事やご家庭の都合で入院が難しい患者さまに多くご来院を頂き、お陰様で開院後一年、手術件数が500件を超えました。
現在、月間手術件数50件以上の豊富な診療経験がございます。
鼠径ヘルニア(脱腸)の日帰り治療は、大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニックにお任せ下さい。